ROCK SEEN BOB GRUEN

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インタビュー

インタビュー

パンクに影響を受けたスタリスト・遠藤彩香が見るボブ・グルーエンの写真
「ファッション好きな人にも見て、感じてもらいたい」

パンクの衝撃

中学生のときに雑誌でセックス・ピストルズを見て、恰好を真似したりしていたんです。ボンデージ・パンツとか穿いて。彼らの音楽を聴いたのはそのあとで––––それまではずっと吹奏楽でクラリネットをやってて、クラシックばっかりだったんですけど––––さらに衝撃を受けました。それで、はじめは男の子のスタイルに憧れていて、それからパティ・スミスを知って「ああ、こんな素敵な女性もいるんだ!」と思ったんです。それが自分の今の仕事の原動力になっているところもあるので、『ROCK SEEN』を見ると「宝物がいっぱいある!」という風に感じますね。

人としてのいい瞬間を撮る写真家

作品集を所有しているわけではないんですが、ボブ・グルーエンの写真はいろいろな場面で見ていました。ミュージシャンのことを調べようとネットで検索したときに「これもボブ・グルーエンが撮ってたんだ」と知ることもありました。彼の写真はどちらかというとオフ・ショットの印象が強かったんですけど、こうして見るとステージの写真もたくさんあるんですね。でもどれを見てもアーティストの人たちが優しい表情で、人としてのいい瞬間を撮っているなぁ、と。撮られる側が素顔の自分を出しているようにも思います。

スタイリストとして見るロック・ミュージシャン

ミュージシャンたちのちょっとした小物づかいやTシャツの質感、羽織りもののサイズ感……いろいろなところをスタイリングの参考にしています。『ROCK SEEN』の中だとたとえばデヴィッド・ボウイのパンツのハイウエスト加減とかタイトなトップスとか、最近はこのあたりを見てますね。あとはパティ・スミスは静かなのに破壊的な、パンクなのにちょっとクラシカルな要素が入っているところが好きです。

ファッションを掘り下げるきっかけにもなる展覧会

ステージ上でもオフ・ショットでも、アーティストの人としての瞬間が切り取られた写真だと思うので、それを見られるのは貴重ですよね。ファッションもその時代にしかない、当時の彼らが作ったスタイルを知ることができる機会じゃないでしょうか。ファッションを好きな若い人たちがこの展示を通じて「こういうのがベースで今のスタイルがあるのか」と知ってもらえればもっとファッションも楽しく、深いものになるんじゃないかな。最近はストリートからインスピレーションを得て服を選んでいる人も多いと思うんですけど、私の頃は憧れの人がいて、その人に近づきたい、その人のスタイルになりたいと、今ほど情報のない中、雑誌や写真集なんかをいろいろ調べていたんですね。だから服が好きな人たちに、そんな風にして自分で感じ、そして調べることも楽しみが増えていいものだよ! と伝わったらな、と思います。ボブの写真はミュージシャンのエネルギーだけじゃなくて、その表情からちょっとキュンとくるところも私にはあって、みんな全然違う人たちなのに不思議と統一感というか共通しているものがありますよね。それぞれの写真から、前後の動きやフレームの外の気配が感じられるのも独特で、そのあたりを想像しながら見るのも面白いと思います。

(インタビュー&テキスト 青野賢一)

遠藤彩香

1982年8月3日宮城県仙台市生まれ。ココ・シャネルと同じしし座のO型。高校卒業後、シューズ平場の販売員からキャリアをスタート。レイ ビームスの販売員、小さなセレクトショップのオデオンの店長兼バイヤー、ラグジュアリー・ブランドの派遣販売員を経て、スタイリストのMORIYASUのアシスタントに。2009年に独立。