ROCK SEEN BOB GRUEN

TOPへ

インタビュー

インタビュー

写真家・鋤田正義の70年代とボブ・グルーエン
「時代の空気を敏感に感じ、現場の空気を作る人」

1970年代、原宿

ボブ・グルーエンと最初に会ったのは1970年代、場所は原宿です。当時の原宿はファッションの店はまだそんなになかったけど、セントラルアパートに写真家の操上和美さんや浅井慎平さんもいたし、その前の路上にはバイクにまたがったクールスのメンバーがいたりして、アツイ時代だったんです。そんな時代の空気をボブは彼なりの直感で敏感に感じ取って、原宿にいたんじゃないかな(註:70年代のある時期、ボブ・グルーエンは原宿に部屋を借りて暮らしていた)。最近だと2年前、ニューヨークで写真展をやったときに、たまたま近くの書店でミック・ロックが写真集の発売記念パーティーをやってて、近所だしちょっと行ってみようかと思って足を運んだらボブ・グルーエンもいて(笑)。その前にもブルックリン・ミュージアムの企画展「Who shot Rock & Roll」(2009年)で顔を合わせました。

ニューヨーク、ロンドン、東京で流れる同じ空気

僕が音楽の写真を撮り始めるのはウッドストック・フェスティバルの後なんです。それまで音楽だとジャズやなんかの写真は撮っていたんだけど、ある日、新聞にウッドストックの記事が「40万人のアメリカの若者が集合して~」みたいに大きく出ていて、その記事がきっかけで音楽だけではないポップカルチャーが気になるようになりました。それで、ポップカルチャーといえば、ということでアンディ・ウォーホルに行き着いて、1970年にニューヨークに行き、翌年、雑誌の仕事で再度ニューヨークを訪れたときにはウォーホルにインタビューして撮影もしたし、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライブも観ましたね。そんな風にニューヨークのポップカルチャーを体験したんですけれど、今になって1970年前後のことを考えてみると、ロンドンだとたとえばデヴィッド・ボウイが出てきた頃はモッズのちょっと後で、カーナビー・ストリートとか、『ジギー・スターダスト』(1972年)のジャケットのヘドン・ストリートはカーナビー・ストリートからリージェント・ストリートを越えた向こう側ですけど、そんな風にニューヨークでもロンドンでも東京でも若者の集まる場所があったんだなぁと思います。場所は違えど、同じ空気が流れているというような。ボブ・グルーエンもそんな時代に「CBGB」や「マクシズ・カンザス・シティ」で写真を撮っているわけです。僕も「屋根裏」とか「新宿LOFT」なんかに出入りして、インディ・バンドの写真も撮っていました。ロックってそういうものじゃないですか。有名な出来上がっちゃった人ばかり撮っていても面白くない。今、ボブがここにいたらそのあたりの時代について、いろいろ聞いてみたいですね。

写真の奥から感じられるボブの人柄

ボブ・グルーエンと会ってて思ったのは、「あ、この人はきっといい写真撮るな」ということ。なぜかというと、人あたりがいいんですね彼は。人と接しているときの空気がいい感じになる。これはとても重要なことだと思います。ミック・ロックみたいに自己主張の強い写真家もいますが(笑)、ボブは撮影するときも自分の存在感を消して、ここぞという瞬間を逃さずスッと撮る、みたいなところがあるんじゃないでしょうか。彼の写真の奥からは、そんな撮影の雰囲気も感じられます。

(インタビュー&テキスト 青野賢一)

鋤田正義

1938年、福岡県生まれ。ドキュメンタリーから広告、映画、音楽まで幅広く活動。代表的な写真集にD.ボウイ「氣」、「Speed of Life」、「T-REX 1972」、「YMO x SUKITA」、忌野清志郎「Soul」等がある。近年ではロンドンのV&A Museum主催の展示会「David Bowie is」へ参加。また、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリア、アメリカ等、世界各地で自身の写真展を展開中。2017年後半にはロンドン、ローマ、アムステルダム等での写真展を予定している。